「ただいま火葬場が混み合っています」

葬儀屋、はじめました。⑪

火葬場のウラ事情

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語る人=水野昭仁(さくらセレモニー代表)
インタビュー・文=朝山実
ふろくマンガ©KUM

 


 町の葬儀屋さんがどんなことを考え、
 仕事しているのか話してもらいます。 
 今回は、お葬式に見る「関東と関西のちがい」について。

 お葬式は、関東と関西は異なる点がいくつもあるとか。
 そのひとつが、霊柩車に棺を運び入れる際。
 関東は、足元から。関西は、頭からと決まっている。
 これは間違えてはいけない「決まりごと」らしい。

「なんで? ……なんでなんでしょうね」

 どうして向きが決まっているのか。
 葬儀屋のミズノさんは、理由は考えたことがないのでわからないという。
 ただ、テレビを見ていて、葬儀の場面が映ると「どちらからやろう?」と注目してしまっているという。

「職業柄ですかね。
 どういう事情からそうなったのか、不勉強でボクもよくわかっていません。
 ただ、そういうふうになっていて、関西では足元から入れることはないです」

 ほかにも香典を受け取るかどうかも関西と関東では異なるところがあるという。
 しかし、お葬式事情での大きなちがいは、火葬までの日数だ。

「関西は亡くなられてから、お葬式はほぼ3日で終わります。
 でも、関東は5日くらいかかることはめずらしくないと聞いています。
 それでも『火葬場が混み合っていますので』と言うと、待ってもらえる。その間、ご遺体を預かることになるんですが。

 しかし、関西で5日かかるなんて言うと、
『えッ? それなら、よそをさがすわ』と言われますからね。
 わたしも、どうして関東の火葬場がそんなに混み合っているのか。聞く範囲のことしかわからないんですが。
 関西でも、混み合うことは混み合っているんですが、火葬場は市町村に一つあって、そこが満杯だと隣の市町村の火葬場をあたるんですよね。そうすると、どんなに混み合っていても3日待ってもらえたらいけます。

 でも、関東は、一週間くらいは珍しくないし、お客さんも待ってもらえるというんですよね」

 関西人の気質はイラチといって、待つのが大嫌い。行列に並ぶのも大嫌い。待つことに関しては忍耐力が欠如した精神風土が根っこにある。
 お葬式に関しても変わらない。問い合わせの電話に、火葬場待ちをクチにしたとたん、「それやったら、ヨソあたるわ」と切り上げられるケースが半分近くにも及ぶという。

──しかし、火葬場が混み合っている場合、ほかの葬儀社に問い合わせても、事情は変わりませんよね。火葬場は一つきりなんだから。

「そうです。火葬場に問い合わせて、お客さんにいまイッパイなので、この日まで無理なんですよ。そう説明します。ヨソの葬儀社に聞いても、答えは同じなんです。
 でもね、ここがこの仕事の難しいところなんです。『よそに聞いてみるわ』と言われたお客さんが、電話をかけなおして来られるということはまずないですから。

 どうして?
 それは、次にかけた葬儀社に頼むということになるからです。
 お客さんも、事情が掴めないものだから、つい強い調子で
『おかしいんやないか!!』と言ってしまった手前、かけなおしづらいんでしょうね。
 なんで、そういう顧客心理がわかるのか?
 それはもう、いま話したのとは逆のパターンがあるからです。
『○○葬儀社に電話して聞いたら、火葬場が一杯だと聞いたんだけど……』と言われて、火葬場に確認しますよね。やはりイッパイでしたとなる。
 でも、ウチだと冷安庫があるので、それまで無料で預からしてもらいますと言うと、『じゃあ、お願いしょうか』となるんですよね」

 通常は、イチバンに電話を受けたほうが有利のはず。ところが、事情を知らないイチゲンのお客さんも多く、後のほうが得ということもあるらしい。
 しかし、火葬場の炉の数が限られている。まさか、葬儀社の大小によって、塞がっていたものが利用できたりするような抜け道が存在するようなことはないのだろうか?

「ないですね
 葬儀屋の大小にかかわらず、それはないです。
 ただ、なかにはズッコイ手を使っているころはあるんですよ。まだ依頼を受けてもいないのに、見込みで釜を押さえよるんです。

 たとえば、12時、1時、2時の時間帯がいちばん混み合うんですが、3件架空の名前で押さえてしまうんです。それは、ほぼほぼ入ると分かっているので。それで、もし2件しか入らなかったときは、その釜はキャンセルするんです。
 まあ、言うたらドタキャンです。
 そのキャンセルもたまにだといいんですが、毎日キャンセルが出たら火葬場も、これはおかしいと思いまいすよね。あまり続くと『本当に入っているの?』と聞き返されますが、
でも、そこは大手の場合許されるというか、圧力ですよね。そういうことは、いまでもやられてます。とくに関西だと、大手2社は有名ですね。業界では」

 というふうに火葬場の炉の何割かは、大手の葬儀社が寡占状態にあるらしい。しかもミステリアスなのは、早朝に確認したときには塞がっていたものが、問い合わせる時間帯によっては「アキ」に変わることがあるのだとか。
 火葬場事情で意外なのは、そういうふうにしてドタキャンが相次いだとしても、火葬場から、葬儀社に対して厳しいペナルティが課せられるというふうにはならないことだ。さらにキャンセルが出た場合にも「空いたよ」と報せてくれるわけでもない。

「なぜか? それは、火葬場で働いている立場からしたら、なるべく仕事は入ってこないほうがいいんですよ。基本、どこも役所の人間なので、ヒマなほうがいいわけですよ。
 入ってなかったら、きょうは早く終われるからエエわ、ってもんです。
 レストランとかで予約を受けたのがドタキャンされたら困りますよね。でも、火葬場に関しては、キャンセルが出ても現場は、現場の人間からしたら、そのまま入ってこないといいのになぁって。キャンセル料を要求するということもないですしね。ペナルティがまったくないわけではないけど。

 まあ、そのあたりは、昔は大手が火葬場の職員に袖の下でやっていたんですよね。ゴールデンタイムの11時、12時、1時は大手にまず押さえられていました。役所の上のひとたちはそんなふうになっているなんて知らないでしょうけど。それも、いまはもうなくなっています。そういうことやっていて、さすがにバレたらエライ騒ぎになるでしょう。
 ただ、繁忙期には、さっき言ったように見込みの予約を入れるというのはあります。年間のデータにそって、これくらいは入るやろうといいうのがあるでしょう。今日は2つ押さえておこうかとか」

──だからといって、マメに電話をして火葬場の状況を確認するというようなことは?

「それは僕らもね、依頼が入ってから電話をかけるんで、入る前から火葬場にアキを確認するなんてことはしません。
 空いてない。3日待ちだといわれたら、もう仕方ない。

 ただ、お客さんからまだご依頼をしていただけてない段階ではあるんですが、ご遺体をお迎えに行くというときに、きょうはイッパイだろうという日には前もって電話して確認します。
 お客さんには、この時間帯でしたら火葬場が空いていますが、どうされますか? ご返事を聞いて、すぐに押さえる。それから、ご遺体のお迎えに伺うということはあります。
 そうしないと、お迎えに行ってからでは、一足違いで空いていたものも塞がっているということがありますから。そうしたお迎えのときは、ほぼ9割はウチで葬儀をやらせてもらえます。
 ただ、問題もあるんです。

 お迎えに伺う時点では、どういう葬儀になるのか。事情がわかりませんから。お話して、これは早めに火葬というのはダメやなあということもあるんですよね。
 たとえば火葬式(直葬ともいわれる。通夜、告別式を省略)の場合は、なるべく早いほうがいいんですけど。いろいろ、まわりにお知らせしてから、ということもありますからね」

 葬儀社が火葬場に申し込む順番として、まず故人の住所地の火葬場を当たるのが原則だ。そこが塞がっていた場合、次に近隣の市町村となる。

「理由は、市内の場合、火葬料が安いんです。1万円から1万5千円くらい。市外となると、4万円から6万円くらいになります。
 なぜ、そんなに差があるかというと、人間ひとりを火葬するとなると7万円くらいのコストがかかるんですよ。燃料費だとか、もろもろ合わせて。
 でも、市内だと納税者なので安くやってもらえる。高いといっても市外でも、満額負担まで行かないまでも6万円くらい。だから、火葬場は儲ける構造にはなってない。
 火葬場が公営なのはそういう事情があるからで。もし民間で火葬場をやろうとすると、かなり高い金額になるでしょうね」

 1万円か、6万円か。火葬の料金の差が出る。
 倹約で知られる関西人ならば、当然安いほうを選ぶと思われがちだが。
「ちがうんですよ」とミズノさん。
 これだけは少々高くついても早いほうを選ぶのだという。シブチンよりもイラチの性分が優るということか。

「料金のことを置くと、多いのは、お葬式は土日にしたいというご要望ですね。だから、早めにしたいというのもあれば、一日待てば土曜というときは、そっちを選ばれることが多い。都合がいいということなんでしょうけど」

 

(つづく)