旅館選びと似ている、お葬式事情?


葬儀屋、はじめました。④

「葬儀屋の大中小ミニは何できまるか?」

 

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語る人=水野昭仁(さくらセレモニー代表)
インタビュー・文=朝山実
写真撮影©山本倫子yamamoto noriko

ふろくマンガ©KUM

前回を読む☞ご遺体搬送ドライバーが得るものは? - 葬儀屋、はじめました。



「仕事が入らない日がつづくと、どうしょうかと思うこともありますね」
 社長のミズノさん、夏場になると葬儀の仕事はめっきり減るのだという。
 ワタシの印象だと、お葬式といえば夏のかんかん照りの日がきまりもの。かれこれ30年も経とうといのに、母のときの突然のことに暑くてやりきれなかった記憶がこびりついているからだろうか。

 葬儀屋さんは「待ち」の仕事である。いうまでもなく、お弔いはおなくなりなるひとがあっての仕事。いつ入るか見込めないということで水商売みたいものだともいわれたりもするらしい。ざっくばらんにいって、仕事が入らないヒマなときの葬儀屋さんはどうしているのだろうか?

「うちの社員は、なんかしているフリをしていますね」

 ミズノさんの目には、仕事が入っていない日、事務所にスタッフが顔をそろえて何かしているようなフリは、フリにしか見えない。

「事務所の掃除をするなり、会館の庭の草むしりをするとか、探したら仕事はナンボでもあるやろう」と思い、もやっとしながら社員たちを眺めていたりする。

 どうも、この日はショッパナから押してはいけないスイッチをいじってしまったらしい。しばらく、相づちをうちながらミズノさんのボヤキを聞くハメになった。

「まあまあ、そうは言うてもね、仕事が入ったら、そのときは皆しっかりやってくれているから、まあいいかって(笑)」

 ところで、ミズノさんが営む葬儀社は社員10名弱。創業5年にして関西圏に葬儀会館を4軒保有。業界の規模としては「小」クラスに入る。
 簡単に業界の「大中小」の分類をミズノさんに解説してもらった。

「大手はベルコ、平安といった一般にも名前の知られたところですよね。従業員は百人以上。一つの葬儀会館に5人の社員スタッフがいたとして、20店舗あれば百人になりますよね。それで、会葬者が200人は入れる会館を複数保有しているところが「大」ですね。
「中」は50人までのお葬式ができる会館を4つ5つ持っている葬儀社さん。
「小」は同じく、50人以内の式場を1つ以上は持っている。
 うちは、いま会館は4つですが、50人規模の式場は1つなんで、まだ小だと思います。
 あとは、昔からの葬儀屋さんで、電話一つでやっておられる個人のところ。ここは「ミニ」ということにしておきましょうか」

 ミズノさんの説明を聞いていて気にかかったのは、葬儀を行う会館の規模と、そうした葬儀会館の保有数を会社の「大中小」の基準と見ていることだった。

──いまの葬儀屋さんは、自社で「葬儀会館」を保有しているのは必要不可欠ということなんでしょうか?

「うちは会社を始めて5年ですけど、これからの時代、自前で式場をもっていないと残っていかれへんでしょうね。
 なんでかというとね、たとえば中堅以上の葬儀社は、ある程度のお金を注ぎ込んでやっているわけですよね。式場にしてもね。それでなんでもそうやと思うんですけど、お客さんは(式場とかの)外観から判断するでしょう。次に、金額。

 まあまあ、スタッフの対応がどうとかいうのは、まあ二の次、三の次ですよね。とくに葬儀となると、そう何回もするものじゃないから(何を基準にして選べばいいのか)わかりづらい面もあるでしょうし。
 だとしたら、中以上のところがどんどん規模を大きくして、式場も見た目のいいものをこしらえていったら、どうしてもそこにお客さんをとられるやないですか。ウチのような、まだミニに近いところに一見で仕事が来るなんてことは、まずなくなりますよね。
 たとえば、アサヤマさんがやられたように、病院のタウンページを繰って葬儀社を選んで、そこに電話するということは、いまはまあ、まずないです」

『父の戒名をつけてみました』という拙著にも書いたことだけども、ワタシの父の葬儀の際は、たまたま父が阪神淡路の震災後に新築はしたものの、事情があって20年ものあいだ誰も住むことのない、まっさらの実家を残してあの世にいった。偏屈な父が葬儀は「いらん」と言っていたこともあり、会葬者は晩年親しくしていた人に限り、父の家ですることにした。
 記憶をたどれば、田舎だったこともあり、母のときも祖父母の葬儀も地震で倒壊した実家で行った。そうした経験から、葬儀の式場を探すというのはワタシの念頭になかった。

 もうひとつ、父の葬儀の際は、父の戒名を宗教心のない息子がつけるという難題があり、そういうわがままを理解してくれそうな葬儀屋さんを選ぶということで頭はいっぱいだった。お坊さんに伝えると、見事なまでに怒鳴られました。

──では、いまはどこの葬儀社にするかではなくて、葬儀会館をどこにするかという場所選びから、お葬式を段取りしていくというのが一般的だということですか?

「まあ、アサヤマさんのようなケースは稀ですね。自宅でお葬式をするというのは、ウチでも、もう一年に一回あるかないかですから。
 昔はね、自宅でお葬式をするというのが当たり前のことやったんですけどね。あるいはお寺でするとか、地域の自治会館だとか。まあ、葬儀会館の数も少なかったし、そういう場所を借りてお葬式をするなんてことは珍しかったと思うんですよ。

 だけど、いまはお葬式が出来る家というのが少ないですから。アパートとかマンションとかになると、最初から自宅でお葬式をするなんて発想にならないでしょうしね」

──ああ、なるほど。繰り返しの質問になりますが、顧客にとって葬儀会館を探すのがお葬式の出発点になるんですね。

「そうです、そうです。たとえば結婚式をするとしたら、まず式場探しをするでしょう。それと同じだと思ってもらえたらわかりやすいかもしれませんね。
 ウチはいま葬儀会館を4つ持っているんですけど、いちばんの売りは、一日一家族だけがご利用いただける隠れ家風のホールなんですよね。お客さんは、そこでお葬式をやりたいというのでウチに注文が入る。逆にそういうふうに会館で選ぶことが一般的になると、自前の葬儀会館をもっていない葬儀社には注文が入ってこなくなるんですよ」

──なるほど。

「それでね、いまちょっと難題なのは、ホールの評判を聞いて、ネットで名前を検索されるお客さんなんです。
 何が問題かというと、自社の会館なのに、まずいちばんに検索してヒットするのが、紹介会社のサイトなんです。そこをクリックして、写真と名前を見て、ああここだ、と思われますよね。そうするとお客さんは表示してあるところに電話される。そうなると、もともとお客さんはホールのことを知っているのに、ウチは紹介会社へ手数料を払わないといけなくなるんですよ。わかります?」

──つまり、楽天などのインターネットのショッピングサイトに、実店舗をもつ洋菓子店が加入するようなことなのかしら。近所なんだから店に来て購入してくれたらいいのに、結果的にお客さんはネット経由で申し込まれる。

「まあ、そういうことですね。実際、ウチの真裏の家の人がね、会館の名前は看板とか毎日見て覚えているからって、ネットの紹介会社経由で注文されたりするんですよね」

──だったら、直接言ってきてよって(笑)

「まあ、そういうことですよね(笑)。話がちょっと逸れましたが、だから最近のお葬式は、お客さんの探し方も近くの会館探しからなんです。そうなると、会館で比較されるんです。誰しもそうでしょうけど、同じ金額を出すんであったら、よりきれいなところ、より便利なところにしようと思うでしょう」


──ネットで旅館とかホテルを探すのに似てきていますね。

「そうですね。それでね、そんなに手数料が負担なら、ネットの紹介会社に登録せずに自前でやればいいということなんですが。これがもう矛盾することですが、自前でやっていくには地域の人にあそこに葬儀会館があると広範囲に名前を覚えてもらえていてこそなんですよね」

──話を戻すというか、整理すると、いまは葬儀会館があってこその葬儀社だということですね。

「もう百㌫いまはそうですね。自社で会館を保有していないと仕事はとれなくなってきていますね」

──そうなると会館を持たないでやっているミニな業者は今後は淘汰されていく?

「個人的にすごい人脈をもっているとかだと別でしょうけど。でもねぇ、なかには、すごい人もいるんですよ。レジェンドみたいな。
 宣伝広告の類は一切しない。事務所は持たず、自宅で奥さんと二人でやっていて、仕事はケータイで受ける。いくつぐらいやろう……、60歳前後かなぁ。もう芸能界からヤのつく業界から、いろんなひとがその人を頼ってくるんですよね」

──それは交友関係が広いということ?

「そうそう。長年培ってきた人脈ですね。件数でいうたら、月に2件か3件くらいなんですけどね。でも、昔はそういう葬儀屋さんがめずらしくはなかったんです。うちのジイちゃんなんか、そういう感じやったから。母方の祖父でね、自分の家を事務所にしていたんですよ」

 葬儀屋レジェンド、会ってみたいな。実はミズノさん、前職はトラック運転手で、その後ご遺体搬送のドライバーを経て、いまの会社を立ち上げたのだが、もとをたどれば葬儀の仕事じたいは少年時代無縁ではなかった。次回は葬儀屋をされていたミズノさんのお祖父さんの話を聞いてみようと思う。

 

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