死亡届って、じつは個人情報満載なんですけど…

葬儀屋、はじめました。②

“病院にお迎えにあらわれたのが一人きりだったとしたら…”

「ボクが、独立して葬儀社をはじめた理由」(後編)

 

f:id:waniwanio:20170525100441p:plain

語る人=水野昭仁(さくらセレモニー代表)

インタビュー・文=朝山実

 

(前日からの続き)

 病院で亡くなられたご遺体は、寝台車で葬儀の行われる、会館なり、自宅へと運ばれる。近年は、住まいの事情もあり、会館へ直接が増えているそうだ。

「到着したら、葬儀社の人間が待っていて、ご遺体を安置し、枕飾りを用意したり、ドライアイスを入れたりします。社長ひとりでやっている業者だと、『あれ、やっといてなぁ』と手伝いをもとめられることが多いですね」

 本来寝台車のスタッフの仕事の範囲は、「ご遺体の搬送」に限られる。人手が足りず、やむなく「枕飾り」を手伝うのはサービス残業にあたる。

「要は、言い方なんですよね。お迎えが運転手一人になるときに、『すまんけど、ひとりで行ってくれる。ごめんやでぇ』と言ってくれる人もいたら、当たり前のようにしている人もいますから。一回それでやれたら、毎回一人で行ってということになる。
 でもね、ボクは、よその人間に任せてしまうよりは、最初に自社の人間が『このたびは……』ときちんと挨拶するほうが、お客さんも感じ方がちがうと思うんですよ。そういう面では、アサヤマさんが頼まれた葬儀社のKさんは、何事も自分が先頭を切ってやるタイプ、(ご遺体を安置し終えたら)『ドライアイス、そこ置いといてくれたら、あとはぜんぶやるから』という人ですよね。自分で枕飾りもやって、お客さんに『お待たせしました、線香をあげてください』という。ボクはそれが当たり前やと思うんですけどね」

──そうじゃない業者を目にしてきたということですか?

「そうやね。とくに夜遅かったりすると、業者も早く帰りたいもんだから、飾り付けとかの仕度を寝台車の人間に任せて、自分はご家族との打ち合わせに入るんですよ。
 ボクはね、葬儀社というものは、葬儀の値段が高くても安くても、お迎えに行って、ホトケさんを搬送するのは金額に関係ない。そう思うんです。だけど、よくない葬儀屋さんは、線香立てて、枕飾りとかをちゃんとやろうとすると、『もうハヨセイよ。カネも出へんのに』ってぐじぐじいう。もちろん聞こえないようにね。そういうのがすごい嫌やったんですよ」

 業者もピンキリ。模範的に映るミズノさんだが、会社に入って働き始めた頃は葬儀の仕事について、お金になるという意識だった。「リッパな考えがあったわけではなかった」。それでも、裏表のある人間を目にすると「それは、ないんじゃないか」と疑問に思い、次第に自分が納得する葬儀の仕事をしたい。そうした気持ちが強くなっていったという。

「だから、ウチの会社は寝台車でお迎えに行くときから二人ですし、金額がすくないときもすることに違いはないです」

──ところで「枕飾り」というのは?

「ご遺体を安置した枕元に、線香とかローソクの準備をすることをいいます。通夜の前に、お坊さんに来てもらって枕経をあげてもらいますが、その支度です。それに(腐敗を抑えるために)ドライアイスを入れたりします。

 これだけでも20分くらいはかかります。この準備をしている間、業者の人間が一人だと、お客さんは放ったらかしになります。二人いたら、一人がやっている間に、もう一人がお客さんと打ち合わせができるでしょう」


 説明を聞いていると、深夜のファーストフードの「ワンオペレーション(一人勤務)」に似ているなと思った。

「そうですね。でも、お客さんにしたら葬儀をするというのはそんなにないでしょう。それに大事な人がなくなったりしていると、もう多少のアラは目に入りませんよ。

 だけども、ウチはそういうところをキチンとしないといけないと思っている。だから、一人は枕飾りをして、一人はお客さんの対応をする。最低二人で動くのはそういう理由なんです」

 言い切った口調に、特別感はない。「でもね」とミズノさん。そうしたこだわりは自己満足にちかいものかもしれないとも言う。「自分がそうしたい。納得できない。だからそうしているところはありますね」と。

「葬儀というものは、何かモノとしてあとに残るものじゃないですから。一般のお客さんにしたら、仕事のよしあしが、わかりづらいと思うんですよ。だけど、たまに葬儀慣れしている人から『凄い丁寧やったわぁ』とか言ってもらえるとね、嬉しいんです。
 まあ、そうでなくとも、一人で全部やろうとすると、焦るしね、いいものにならない。なんでもそうですが、ひとに優しくしようとすると、自分に余裕がないといけないでしょう。だから二人体制にしているんです」

 そして、お客さんとの打ち合わせに入る。会葬者の人数。祭壇や棺、供花や仕出しなど細かいことを決めていく。

「それも大事なんですが、まず大事なのは『死亡届』を書いてもらうことなんです。A3くらいの紙の右側に、死亡診断書。左側が死亡届になっていて、故人さんの名前と住所、本籍。届け人さんの欄を書きこんでもらったら、葬儀屋さんがそれを役所に届けるんです」

──家族ではなく、葬儀社のひとが出すものなんですか?

「そうなんです。えっ!?と思うでしょう。もう個人情報バリバリですよね。だから本当は、家の人が出すものなんです。

 では、なんで葬儀屋が代行するようになったのかというと、大手の葬儀社がサービスの一環として始めたんです。

 おうちの人が、大切な人が亡くなったというときに、火葬場の手配をして、役所に届けを出しに行って、ということをするのって大変じゃないですか。それで特例として、役所も業者が代行するのを認めているというか、まんいち書類に不備があると火葬できへんのですよ。

 たとえば、火葬場の予約がとれたとします。だけど、その場になって『届けを出すのを忘れていたわ』なんていうたらもう火葬できません。火葬場で、どうするんやってなる。大急ぎで役所に走っても、役所ですからね、届けを出すだけでも一時間、二時間かかかりますから」

──つまり、過去にそうしたミスが一杯あったということなのかなぁ。

「そうです。失敗が過去に度重なったから、そうなったと思いますね」

──たしかに、記憶をたどると父のときに葬儀屋さんにお願いしたのを、いま思い出しました。そのぶんの料金は?

「大手は料金に込められていると思いますね。手間ですからね。で、余談ですが、そのときに死亡診断書の原本を出してしまったら、返ってこないので気をつけないといけないんですよ」

──葬儀屋さんから、「コピー何枚必要ですか?」と聞かれましたね。

「コピーは、年金とか生命保険とか銀行の届けに必要になってきますから。

 それが終わり、(遺影)写真をどうしますか? 祭壇をどうしますか? 料理は……という打ち合わせをしていきます。これに1時間から2時間はかかるかなぁ。一通り済んだら、いったん帰られるお客さんもおられるし、ここで区切りになります。

 葬儀社は、このあと発注に入ります。遺影の発注。お寺さんへの連絡、献茶さんに電話を入れ、花屋さんに花を頼んでと、お通夜ができるようにダンドリをしていくという流れです」

 

f:id:waniwanio:20170521111012j:plain


イラストレーション© KUM

写真撮影©山本倫子yamamoto noriko