「カソウシキ」って何?

 葬儀屋、はじめました。⑥

お葬式のコンパクト化とネーミングの変遷

 

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☝到着した仕出しのお弁当を確認中


語る人=水野昭仁(さくらセレモニー代表)
インタビュー・文=朝山実
写真撮影©山本倫子yamamoto noriko
ふろくマンガ©KUM



 終わってみたら、お葬式が思いがけず高額だった。何百万も払った。そんな話は昔のことになりつつあるようだ。

 旧世代のワタシには、いまでもお葬式をするための会館の下見をしたり、葬儀屋さんと事前相談をしたりするなんてことは気が引けるが、いまは合理的というか、引越しを頼むときみたいに数社から見積もりをだしてもらって比較検討するお客さんもめずらしくないらしい。

 葬儀の規模の縮小と、「会計の明朗化・低価格化」の流れが背景にはある。同時に「団塊の世代」の葬儀を見込んで、近年は異業種からの新規参入が増えているという。「もうお葬式なんていらない」と煽るメディアもあり、お葬式業界はいま荒波のまっただ中にある。
 今回は、葬儀屋のミズノさんに、最近増えてきた「家族葬」「直葬」「一日葬」。経験したことのないひとには耳慣れない葬儀の名称、コース分類?についてたずねてみた。


「昔は金額帯でいうと、だいたい150から200(万円)くらいの規模の葬儀が一般的とされていて、そのうちの半分くらいを(会社の利益として)残さないかんかったんですよ」

──半分というのは、売り上げの半分ということですか?

「そうです。受けた(仕事の)金額の半分を残すのが(業界の)セオリーというか。人件費などを引いた粗利ですよね。でも、ウチの少人数で行う『家族葬』でいうと、たとえば50万円のお葬式だと20万も残らへん。経営の面からいうと、ちょっと使いすぎているんですよ、経費をね」

──その粗利が半分ないとやっていけない事情をもうすこし説明してもらえますか?

「結局、待ちの仕事でしょう。いつ仕事が入るかわからない。水もんやからね。こう言うたらなんやけど、スナックと変わらない。数ある雑居ビルの中の一軒のスナックにお客さんが来る、確率でいうたら一緒というか」

──お客さんがひとりも来ない日もある飲食店みたいなこと?

「そうです、そうです。それに仕事の性格上、営業なんかかけられないですからね。それなのに、いまは(業者間の価格競争で)むちゃくちゃなことになっていて、一件30万とか50万とかで、会社として、これでどうやって良いサービスを提供していったらいいか…」

──それは、インターネットで葬儀を斡旋するサイト会社のようなところが、価格を抑えたパック料金で業績をあげているのと関係していますか?

「ちょうど、ボクらがご遺体搬送会社を始めようとしたときが境目やったような気はしますね。葬儀の価格が急激に下がりはじめたんですよ。それまでは、まだまだ金額が出ていたんです。独立しようかと考えていたときに、『家族葬』というのがチラホラ言われ始めたんです」


──ワタシも、父親の葬儀をするときにタウンページで葬儀屋さんを探していて「家族葬って何?」と思いながら、式の参加者は10人未満ということで、まず名の通った大手をはずして、小さな規模の葬儀を専門にしている中から選んだんですよね。

「いまは定着してきていますが、その『家族葬』という呼び名、じつは葬儀屋さんが作ったんですよ」

──新しい用語ということですか?

「そうです、そうです。たとえば、喪主さんに『どのくらい来られますか?』ときくとするでしょう。『うちは親族含めて10人くらいやから』と言われ、だからなるべく金額を抑えたものにしたい。『それでしたら、一般の人はシャットアウトして行なう"家族葬"にしませんか。これだと50万で出来ます。もうすこし祭壇を豪華にしたいということでしたら、あと20万足してもらったら、お花を豪華に出来ます』というふうな説明をしていたのが始まりだったんですよ。
 というのもね、一般のお客さんは、人数が少なかったら、それだけ金額も安くすむんじゃないかと思われているんでしょうね。『うちは人数少ないし、この50万円でも高いと思うんやけど』と言われることがよくあるんです」

──なんか、ワタシ言いそうだな。

「だいたい、みなさんそうです(笑)」


 お葬式は参列者の人数がすくなければ、格段に安くなるというものではないらしい。式場を借りる使用料金、棺、祭壇、ドライアイスに飾り物、遺影写真、霊柩車の料金、火葬場の費用などは参列者の規模によって増減するわけではない。そして、お坊さんへのお布施や戒名代は葬儀社の会計とは別である。

 参加者の数を考え金額を抑えるとしたら、参列者への返礼品。通夜などの料理にしぼられるという。

「『家族葬』という言い方が浸透していったのは、お客さんの側の心理として、ひとから聞かれたときに、安いからこれにしたというよりは『説明を聞いて、家族葬がいいと思ったから』と言うほうが聞こえがいいでしょう。
 ただ、実際は昔でいう『密葬』と変わらない。言葉だけが変わっただけで、まったく中身は一緒です」

──あ、そうなんですか。「密葬」というのは、親族や近しい関係以外には告知せず、内々でひっそりと葬儀をするということですよね。

「そうです」

──でも、実質的な中身が一緒なのに、どうして「密葬」をわざわざ「家族葬」という言葉に置き換えるようになったんですか?

「それは、やっぱり聞こえが悪いから。お客さんの目線で考えてくださいね。たとえば、『密葬30万円』と書いてあるのと『家族葬30万円』というのと、どっちを選びます?」

──同じ商品なんだけど、包装紙やネーミングの違いで購買心理も変わるということか。

「そうです、そうです。だから、こちらは家族葬だということで受けたのに、近所のオバチャンがいっぱいやって来られる困るんですよ。そうなると、もう家族葬じゃなくなりますからね」

──来られた人への、お葬式の返礼品とか用意してないのにどうしょう?と現場があわててしまうということですか。

「そうです、そうです。じつはお葬式で、どこにお金がかかるのかというと、来られた人に渡す粗供養(500円程度の返礼品)であったり、料理(もてなしの飲食)であったりするですよね。
 ホンマに家族だけのことなら、お膳の仕出しの料理はいらんでしょう。『ちょっと、みんなでどこか近くのうどん屋に行こうか』でもいいんですよ。葬儀の設営にかかる人件費や祭壇などの飾り、霊柩車の料金などはほぼ固定で、お客さんが安くしようとしたら料理などの部分なんですよね」


──そうかぁ。ご飯代がかさばるのね。業界はちがうけど、映画とかを撮るのにどこにお金が出ていくかというと、メシと移動。エキストラは現地調達の全員ボランティアにしても、百人集めたらお弁当が500円で一食でも5万円になる。

「そういうことですね。それで、いまはそこにカソウシキというのが出てきているんですよ。これも前は『直葬』と言うてたんですけどね」

──カソウシキというのは、どういう字を書くんですか?

「火葬場の火葬に、葬式です」

──ああ「火葬式」ね。

「それもね、ちょっと前までは『直葬』と言うてたんですが、『火葬式』と言うた方が聞こえがいいからなんでしょうね。もう直葬とは言わなくなっています」

──もともとの「直葬」も一般には馴染みのないものですけど。病院などから火葬場に直接ご遺体を運んで、通夜とかをしないので、チョクソウといっていたんですか?

「あれも、なんでそういう名前になったんでしょうね。要は、通夜とかの告別式とかの儀式的なことは省いて、火葬場で火葬するという意味合いなんやと思います」

──家族葬にしても火葬式にしても、そういう呼称じたいは葬儀屋さんが作った言葉なんですか?

「そうそう。大手がね」

──外に向けてアナウンスしたら、定着していったということですか?

「そのとおりです。ですから、最初『家族葬』と聞いたときに、なんのこと?と思う人が多かったんです。それが『こんなふうなので、こういう料金で出来るんやで』というふうに人づてに浸透していき、一般の人も知っている言葉になったんでしょうね」

──家族葬という言葉が使われるようになったのは、この数年ぐらいのことですか?

「どれぐらいかなぁ。言われてから10年にはなるかなぁ」

──それまでは密葬だったんですよね。でも、たしかにミッソウと耳にすると、なにやら暗いイメージがしますものね。それで「火葬式」という呼称はいつ頃から?

「ここ三、四年ぐらいちゃうかなぁ」

──ミズノさんのところも「火葬式」と明記しているんですか?

「うちもパンフレットにもそう書いています。あと『一日葬』というのも昔はなかったですからね」

──整理しておくと、「一日葬」と「火葬式」とは異なるんですか?

「別です。まず、通常の仏式なら欠かせない通夜をしないで、告別式だけをするのが『一日葬』です」

──「一日葬」も、言葉としては定着しているんですか?

「もう定着してきていますね」

 最近のお葬式の呼称についてまとめると、こうなる。
家族葬
 参列者の数を限定し、従来のお葬式の規模を小さくしたお葬式。「家族」という呼称から誤解されることもあるが、家族や親族以外の親しい人を招いてはいけない決まりがあるわけではない。便宜上、人数を限定するために「家族」としている。

「火葬式」
すこし前までは直葬といわれていた。通夜、告別式を行わず、火葬場の炉前で簡単なやりとりで火葬にふす。場合によっては僧侶が立会うこともある。

「一日葬」
形式は家族葬ながら、違いは前日の通夜を行わなず、告別式の当日だけですます。最近増えつつある形式で、簡略化ということでは「家族葬」と「直葬」との中間に位置する。但し、お寺さんの見解では、通夜を欠くのは正しい仏式の葬儀と認められおらず、お寺の墓地に「家のお墓」を有している場合には、納骨を断られる可能性もある。

 ここに「一般葬」といい、友人知人にも来てもらう従来の葬儀が加わる。ディナーのコース料理を見比べている感覚がしてくるが、ミズノさんによると、「一日葬でお願いします」と言って来られるお客さんでも、それぞれの意味するところの違いを承知していないことが多いという。「料金を抑えたい」喪主さんに、通夜を省いた場合に起きかねない事態を細かく説明するのが大変ということもあるらしい。

 さらに、内々でお葬式を終えた後、故人の知人や近隣の人たちのお参りが絶えず、対応に追われ、後日「お別れ会」などを催さざるを得ないということも出てくる。故人が多くのひとに大事に思われていたがゆえではあるが「その後の多忙」を考慮すると、一概に「家族葬だから安い」とは限らないようだ。

 

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