運動会とお葬式のナルホドつながり

葬儀屋、はじめました。⑩

「たまにある、神式のお葬式ですが」


町の葬儀屋さんがどんなことを考え、
仕事しているのか話してもらいます。

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語る人=水野昭仁(さくらセレモニー代表)
インタビュー・文=朝山実
写真撮影©山本倫子yamamoto noriko
ふろくマンガ©KUM

 

 前回は、「家族葬」が一般化するなかでお葬式に行ったことがないという年配者が増えている話や、お葬式が「アラカルト化」しているという話題でした。今回は、仏教式以外のお葬式について話してもらうことにします。

 

「数は少ないんですが、神道のお葬式は年に一回か二回の割合で受けています。
 神式のお葬式は、仏式の通夜にあたる『通夜祭』と、告別式に当たる『葬場祭(そうじょうさい、神葬祭ともいう)』が大事な儀式としてありますが、近頃、仏式のお葬式で、お通夜を省いたりするのが珍しくなくなってきているように、神式でも通夜祭を省くようなことが出てきています。
 しかしながら、そうすると通夜祭のなかで『御霊(みたま)移しの儀』というのをするんですか、故人の魂を霊璽(れいじ)という仏式の位牌にあたるものに移すための儀式で、通夜祭を省いてしまうと、御霊移しは何時するんやろうか?
 理屈上は御霊を移せえヘンままだと、仏さんの魂は宙ぶらりんなままなんやけど、と不思議に思うことがでてきています。まあ、なんとなく、それっポイものやったらいいということなら、それでいいんでしょうけど」

 町の葬儀社にとっては年に数回あるかないかの「神式のお葬式」だが、数回のことだけに作法に詳しいスタッフは揃ってはいないのが実情らしい。それでも、葬儀社としての仕事はとどこおりなくできてしまうのは、こんな事情によるものだという。

「うちは、ご葬儀のご依頼があったときにセンセイを何人か知っているので、そこに電話してきてもらうんですけどね。センセイというのは、神社の宮司さんです。ええ。ふだんは、先生と言うているので。はい」

 たとえばミズノさんのところで年間400件の葬儀があったとして、神式の施行は2件くらいの割合になるという。段取りとしては、喪主さんのほうで付き合いのあるマイ神社がある場合は、家のひとから神主さんに連絡をいれてもらう。マイ神社がない場合は、葬儀屋さんが付き合いのある神主さんに電話し、都合を聞いて日取りを決めることになる。
 仏式の「お布施」にあたる神主さんにお渡しする費用の総額の相場は、35万から40万円くらい。「御霊前」「御玉串料」「御礼」などの表書きをして渡すのが作法だ。
 
「戒名を書いた白木の位牌にあたるものは、霊璽(れいじ)といって、四角い白い布を張った鏡がついているものに、御霊(みたま)を移すんですけどね。それは、仏式で白木の位牌に魂を入れるのと一緒ですね。それを『遷霊祭(せんれいさい)』といって、お祈りをしますが、そんなに特別な儀式はないですね。
 そうそう。仏式の戒名にあたるものに、オクリ名というのがあって、『諡名』と書きますが、『○○○○大人命』と書いて○○○○ウシノミコトと読みます。女の人は『○○○○刀自命自』と書いてトジノミコトという。そうした言葉をあてた名前をもらいます。○○○○のところには、生前の氏名が入ります。これが、しいていうならば戒名にちかいものになるようです。
 でも、年間に二回くらいなんで詳しいことは、わかりません。でも、わからないなりに何で出来ているのかというと、先ほど言いましたように、先生がいてるからなんです。葬儀に来ていただく宮司さんのことを『斎主さん』とお呼びしますが、先生が来られたら、ここはこうしてください、ああしてくださいと教えていただけるんです。
 先生もね、葬儀の経験が少ないことは知っておられます。作法を理解している葬儀屋はそうはいてないというのは承知されていて、よろしくお願いしますといえば、『大丈夫です。あとは私が先導して行きますから』と言ってもらえますから」

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神式のお葬式の道具は
運動会のレンタル屋さんから

 

「神式のお葬式にも、式次第というのがあって、まあ、プログラムです。それをもとに進行していくんですけどね。基本、葬儀社のする仕事は、準備をすることなんですよ。段取り。ですから、全部を詳しく知っている必要はとくにないというか。宮司さんのようにわかっているひと、できるひとに頼むので。
 道具とかもね、神式だと祭壇は専門のレンタル業者に頼むんですよ。年に2件くらいだと、保管しておくと場所をとりますから。業者さんに頼めば、運んできてくれて、尚且つ組み立てもしてもらえる。まあ、それくらい需要がないということなんですけどね。

 道具屋さんですか? そんな特殊なところやないです。テントやパイプ椅子、マイクやストーブをレンタルしているところが多くて。そうです、そうです、ふだんは運動会とかやっておられる業者さんです。
 お葬式もすれば運動会もする。昔はよく、お葬式の式場でパイプ椅子を並べてテントを張ったりしていたでしょう。白と黒のクジラ幕を張って。いまは少なくなりましたが、そういうのをやっているところが多いんですよ。だから葬式以外には、小学校の運動会とかを請け負ったりしていて。うちがよく利用しているのは○○リースというところなんですけどね。運動会の時期になると大忙しですよね」

 たとえセンセイが親切に教えてくれるといっても、そこは仕事だ。まったく知識なしでもいいというわけではない。

「そうですね。使うモノの名前くらいは知っていないといけないんですよ。たとえば、『五色旗とサンポウはどうします?』といわれて、何ですか?と聞き返していたんでは仕事にはなりませんね。
 いま、サンポウって何?て思われているでしょう。『三方』と書きますが、大相撲で行司さんが懸賞を載せてくる白い台があるでしょう、わかります? 四角い台の下のあたりに、ハート形の穴が三箇所くり抜いてある。それで三方というそうなんですけどね。これは祭壇の上にお供えものを載せるときに使います。
 それで、祭壇が小さいと通常は5つ並べるところを、3個でいいわとなるんですよ。今回はシンセンモノはそんなにないし、と。あ、シンセンは『神饌』と書きます。神棚にお供えするもののことで、三方に載せて置きます。塩とかお米とか、お酒、野菜、果物、地域や宮司さんによって品数は違ったりします。
 あと、五色旗は、『三種の神器』と呼ばれる鏡と刀と勾玉(まがたま)のレプリカを祭壇に飾るんですが、鏡は祭壇の中央に、刀と勾玉は五色旗に吊るして飾ります。両サイドに立っている、五色の旗なんですけどね。
 三方は3個でいいわと言われたら、業者さんは場所が狭いんだとわかる。狭いんやけど、でも五色旗はほしいかなぁというような、そういうやりとりをするんですよ。
 あとはハッソク。これは足が片側に四本ずつあって、ぜんぶで八足あるところからきているんですけどね。玉串を置いたりする台というか小机で『白木八足』と呼ばれるものだとか、そういった道具の呼び名と、どこで使うものかということぐらいは知っていないと仕事にはならないですね」

 ちなみに棺は、式の間は祭壇の奥に安置し、参列者が故人の顔を見る場合、式の前後に祭壇の後ろに回りこむことが多い。しかし、これも式をつかさどる神主さんによっては、祭壇前に安置するよう指示される場合もあるとか。
 仏式との大きな違いは、数珠は不要。というか、持参してはいけない。もちろん焼香もない。かわりに「玉串奉奠(たまぐしほうてん)」といい、神主さんから手渡される榊の玉串を台に置き、「二礼二拍一礼」をすることになっている。
 
 そうした作法を詳しく熟知している必要はないが、まったく何も知らないのでは、仕事はできない。ご遺族から「神式」でといわれた場合、神式の経験のないスタッフが担当に付いた場合、担当が替わるということが起こりうるのだろうか。

「替わりますね。なかには、任せられると思ったスタッフに経験としてやってみるかと言うこともありますけどね。でも、まずもって、神式やキリスト教の式の場合は、ご遺体をお迎えに伺うまでに、わかっていることが多いんですよ。お家のひとが言われますから。『神式なんですけど、できますか?』というふうに。少ないし、作法がちがうので。
 だから、葬儀屋さんが小さい規模だと、うちは経験がないからと断ることもあるでしょうね。少ないといえば神式はまだしも、カトリックになるとやったことがないと、できないんです。ウチだと、そういう場合は扱っているところを紹介します。
 なんでかというと、カトリックの場合は、スタッフに信者さんがいるくらいじゃなかったら、作法がまったくわからないんですよ。仏式は葬儀社の司会で進みますが、カトリックだと洗礼を受けているひとが進行させていくんで、カトリックの葬儀をしようと思ったら信者さんにならないと難しいと言うてもいいくらいなんですよね。
 ただ、同じキリスト教でもプロテスタントなら、ウチでもします。詳しくは知らないなりに牧師さんに教えてもらいながらすることができるんですよ。
 でも、カトリックはそうはいかんのですよね。教会に電話しても、わかるひとじゃないと無理ですよ、と言われますから。なので、つよいところを紹介することにしています。それに、カトリックのひとが一般の葬儀社に電話してこられること自体まずないですよね。
 プロテスタントの葬儀は、言うても年に二回くらいかな。多くはないですが、請け負えるのは、じつは社員にひとり、プロテスタントの信者がいているから、そのぶんつよいんですよね」

 つよい、というところを強調ぎみに言う。ほかにも、いろんな宗教の葬儀も体験してきたというミズノさん。実家は仏教系ながら、自身の葬儀は「神式にしてほしいなぁ」と奥さんに希望しているそうだ。「贅沢な。火葬式で十分」と一蹴されたそうだ。